RUN!冒頭部より抜粋



 それが起こったのは、もう春休みが目前なんだから休ませてくれよと絶叫したくなるような時期だった。
試験も球技大会もお犬様騒動も終わり、ついでに菓子業界の陰謀第二弾であるホワイトデーも終わっていたころだ。ちなみにホワイトデーにまつわる一切の話は割愛させて頂く。俺と古泉が果てなく苦労したこと以外、全く関係ないからである。
 最初に言っておくが、それは恐らくそう大それたものではなかったのだ。世界が無くなることも作られることもなく、延々と八月がループすることも、孤島やら雪山やらに閉じこめられたりすることもない。
ただ単純に、それはもうなんか対ハルヒ現象対処係みたいな俺たちが走り回るはめになったという、それだけの話である。だが、更に言うならその直接的な原因はハルヒではなかった。間接的にどうか、と聞かれれば頷かざるを得ないだろうが。
 ことの始まりはどこだっただろうな、多分遡れば五月とか六月とかになっちまうんだろうが、今回だけに限ってみればそれは、そうだな、担任岡部の言葉からだっただろうか。



 朝のホームルームの間も、教室の空気はだらけていた。試験も終わったことだしさっさと休みにしてくれりゃいいと全員思ってるんだろうことが容易に想像できるね。まさかこのクラスが名残惜しいという感傷を持ってる奴はそうそういないだろう。四月になれば学年が一つ上がってその分受験という暗い未来も近くなるのだが、一ヶ月後のだるさより一週間後の長期休暇のほうが大事だろ。
 そんな中張り切って連絡事項を喋っていた岡部は、最後に思い出したように付け足した。
「最近盗難が目立っているので、各自持ち物には気を付けるようにな」
 ほう、そんなことがあったのかと思いながら、窓の外を見るふりをしてちらりとハルヒを伺う。同じように窓の外を見ているハルヒは、実につまらなさそうな、要するに教室にいるときのデフォ顔をしていたので、俺は視線を戻した。
少々の安堵を感じたね。ここでハルヒに「泥棒を捕まえるわよ!」とか言い出されたらたまったものじゃない。
 大体岡部の様子が真剣にも見えなかったところから、大した金額的損失は無さそうである。せいぜい誰かが財布を盗まれたとかどっかの女子の体操服が無くなったとかそんなんだろうと、当人にとっては重大だろうが大多数の生徒には話のネタにもならないくらいの話を俺はひとまず忘れた。
嫌が応にも思い出させてくれやがることが起きるなんて、この時の俺に想像できたはずもない。想像できたからといって予防策なんて大して浮かばないところが凡人の空しいところだな。




どこを切り取っても詐欺になりそうだったので冒頭部を。改行を増やしてあります。

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