快晴日和
じんわりとした夏の夜の暑さが、無駄に室内に蔓延していた。窓も扉も開け放しているが、風もさほど通らないのであまり意味がないように思える。アルベルタは交通の便はいいのだが、やや南に位置するためか湿気が多く、暑い。
読んでいた本を机上に投げ出して、椅子の背もたれに思い切り寄りかかった。揺り椅子とかいいかもなあ、と思う。
「海に行きたい」
久々に思う存分泳ぎたいもんだ、と独り言を呟くと、何故か返事が背後からやってきた。
「夜の海でも見に行く?」
背後に体重をかけたままだったので、そのまま首を下げる。やってみて頭に血が上ってきて失敗だと悟ったので、すぐに上体を起こした。我ながら間抜けなことをしてしまった。
寝室に音もなく入ってきたアサシンは、背後から腕を回してくる。頬に触れる髪が濡れていて、暑さと相まって不快だった。
「髪はちゃんと拭けって……」
仕方がないので奴が首に引っかけたままでいるタオルを取って頭を適当に拭いてやる。その状態でも腕を放そうとしないのがこの男の特徴で、それにいちいち文句を言うのももうぼちぼち面倒な領域に入ってきているので俺もそのまま拭き続ける。要するに、自分の髪を拭くのと似たような要領だ。
腕が地味に痛くなるのでいつも程々で止めているが。筋でも痛めて楽器に触れなくなったら俺は泣く。
「海が見たいんじゃないの」
「違う、海で泳ぎたいんだ」
見に行きたきゃここは港町なんだから、さっさと行っている。だが沿岸は整備されているわそれ以外も基本崖だわで、泳げるような砂浜はない。
「海かあ」
タオルを俺の手から奪い取って床に放ったアサシンは俺の頭頂部に顎を乗っけてなにやら思案する声を出した。
おいこら、その辺に放り出すんじゃないと何回言ったら覚えるんだこいつは。
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