彼が切れる瞬間
日もとっくに暮れた路地裏を、二人のクルセイダーが駆けていく。肩を並べて走るには道は少々狭く、前後に並ぶように走っていた。やがて分かれ道に差しかかり、身振りだけで前を走っていた方が道を示す。それに無言で頷いて、青いポニーテールのクルセイダーはそちらと逆の道に走り込んでいった。先程までは三人で走っていたのだが、彼とは同じように別れた。
クルセイダーはますます狭くなった道を、盾や肩当てが引っかからないように用心しつつ走る。彼らは人を追っていた。土地勘はあちらにあるだろうが、見失うわけにはいかなかった。
その道に走り込んで、クルセイダーは足を止めた。少し広くなっている道の先は行き止まりで、両側の建物の高さは威圧感すら感じさせた。そのどん詰まりに、三人の男が立っていた。クルセイダーは静かに息を整える。間違いなく、彼らが追っていた相手だった。
事の始まりは、三ヶ月ほど前だった。冒険者のクルセイダーの一人が、行方不明になったと聖堂に連絡が入ったのだ。だがそれだけならばよくあることと言わざるを得ない。冒険者を止める時は冒険者証を始めとした様々な物品を当局に返還し手続きを踏まなければならないが、それをしない者も多い。また、モンスターに人知れず殺されている可能性も高い。最初は誰もそれを重要視しなかった。
だが、一ヶ月も経たないうちに届け出は増加していく。どれもこれも、町中で、夜消息を絶ったというものだった。
そして被害者は、駆け出しのクルセイダーが大半を占めていた。
プロンテラの市民たちや新聞が『クルセイダー連続失踪事件』と呼んだこの事件を、最初の通報から二ヶ月が経って聖堂は腰を上げた。見まわりを強化し、ある程度の経験を積んだ冒険者にも協力を頼んだのだ。事件発生から協力を頼むまでに間があったのは、聖堂と聖堂騎士団の意見の食い違いが原因であるという噂がまことしやかに流れていたが、当のクルセイダーたちにそんなことは関係がなかった。
放っておけないと名乗りを上げた冒険者と、元からの聖堂騎士団がチームを作って見まわりに当たり、そして今夜ついに尻尾を掴んだ。
すでに全員に連絡が行っているはずだと、抜いたツルギを片手にクルセイダーは思う。男たちは、追いつめられた様子もなくにやにやと笑っていた。
「――話があります」
クルセイダーは油断無く地面を一歩擦った。
「ここ最近のクルセイダーの失踪について……なにかご存じではありませんか? ご存じでないのなら、あなた方が先程なにをやっていたのかの説明をお願いします」
こんな時まで丁寧なクルセイダーの口調に、ついに男たちは爆笑で答えた。クルセイダーは表情を変えることもなく、ただそこに佇んでいる。
焦ることはなかった。先程別れたチームの面々も、やがてここにやってくるだろうことはわかっていたからだ。連絡を入れている暇は自分にはないが、他の場所の探索が終わった後ならばここに来るだろう。
「答えてください」
静かな声に答えたのは、後ろからの声だった。
「いいぜ、教えてやっても」
クルセイダーは弾かれたように振り向くと、そこに人影を確認して飛びずさりかけた。が、引き留められたようにその場に留まる。視界の端で、相対していた三人の男たちが近寄ってくるのを捕らえた。
四人目の男の腕には小さな子どもが抱えられており、その首筋に鋭い短剣が当てられていた。目隠しをされた子どもは気絶しているのか眠っているのかはわからないが、騒ぐ気配もない。
「ただし、あんたの身と交換だ」
子どもを人質にした男がリーダー格のようだった。残り三人はゆっくりと包囲網を縮めていく。
「……お断りします」
「おいおい、月並みな台詞言わせねえでくれよ?」
慎重に言葉を出したクルセイダーを、男は一蹴した。見せつけるように、子どもの髪に短剣を滑らせる。奇妙にゆっくりと、髪の一房が切れて落ちた。
「こっちは大サービスで体験させてやろうってのに、愛想がねえなあ」
「…………」
クルセイダーは唇を噛んで、少し屈んで手からツルギを離した。最小限の衝撃と共に、剣が地面に落ちる。腰に差したままだった海東剣を鞘ごと外す。
一人の小男が手早くそれらを拾い上げた。
「……これでいいですか」
「盾と、そうだなあ、鎧も外してもらおうか?」
これ見よがしに短剣をちらつかせる男を一瞥して、クルセイダーはマントを地面に落とした。
じじ、とランプの芯が焼ける音がする。そんな、普段でも気にならないような音を拾ってくる自分の耳がクルセイダーには不思議だった。
場所はあの行き止まりからすぐの家の地下に移っていた。暗く澱んだ空気の中、寝台には先程から目を覚まさない子どもが横たわっている。場所があまり移動しなかったのは幸いだった。他の人たちはどうしているだろうかと、クルセイダーは考えを反らす。
髪の毛を掴み上げられた。
「……泣かねえなあ」
やせぎすの男だった。その後ろで、リーダー格の男が腕を組んで見ている。彼はあらかた満足したらしい。這いつくばる姿勢から無理に引き上げられて首の筋が痛んだが、表情には出さなかった。どうせ、体中のどこを探しても痛くない箇所など見つからない。
ぱん、と横っ面をはたかれた。
「…………」
それでもじっとやせぎすの男を見返すと、気味の悪そうに目を逸らされた。
「これ売れるんすかねえ?」
禿頭の男がいやに陽気な声で喋り出した。リーダー格が肩をすくめる。
「強情なのがいいって奴もいるだろ。どうせ、ぼちぼちこの商売はおしまいだ」
「一度にやりすぎたんじゃね」
「かもな」
男たちの会話を一つ一つ噛みしめるクルセイダーと、やせぎすの男の目が合った。ちっ、と舌打ちする。
禿頭の男が体を離していった。ぎり、と奥歯を噛む。寝台の方から、つまりクルセイダーの後方からふらふらと小男が歩み寄る。
どん、と新たな衝撃が走った。
熱い、と認知する間もなく、上半身に辛うじて引っかかっていた肌着に赤い液体が滲んでいく。脇腹の横に、見慣れた鋼が突き立っていた。
「ぐ……うっ」
斬られた、との自覚は、ひっひっひ、という引きつった笑い声と共にやってきた。小男が手に持っているのはクルセイダーの愛刀だ。あまり同じ武器を使っている人は見かけない、ツルギという多少湾曲した剣だった。サーベルや海東剣の方が人気が高く、扱い方もそれとは少し異なる。毎日こまめに手入れをしていて切れ味が落ちていないのを、少しだけ後悔した。
血臭が漂うのを、クルセイダーは身を持って実感した。
「おいおい、殺すなよ?」
「へへっ、趣味なもんで」
「五体満足な方が高くつくっつーの」
「ほとんどかすり傷だろ」
禿頭の男が傷口を抉るように触れてきた。びくりと筋肉が反応するのを、小男はさも面白そうに笑う。
誰も、クルセイダーの雰囲気が変わったのに気が付かなかった。
渦巻くのは空気、散らすのは火の粉。
クルセイダーは剣を握るように拳を作る。
ちいさく、口の中だけでマグナムブレイクと呟いた。
「……っ!?」
巻き起こる炎は、魔法のそれとは違うものだ。凝縮された闘気が衝撃波になって起こり、それが摩擦によって一時的な炎を起こす。炎症もしない、半分はこけおどしのような炎だ。だが、衝撃は本物である。
男たちはクルセイダーを囲むように立っていたため、まともに衝撃を食らってたたらを踏む。クルセイダーは腕の力で体を起こし、小男の腕を強かに打った。耐えかねて取り落としたツルギを自らの手に握り、入り口から遠い方へと駆ける。
人質が横たわる寝台を後ろに、彼は四人の男と対峙した。
とっくにほどけてしまった長い髪が、その背を覆うように広がる。
おいおい、とまだ男たちは笑っていた。
「どこにそんな元気が残ってんだあ?」
リーダー格は呆れたようだったが、右脇腹から流れ出る血がクルセイダーの認識を変えている。
――ここは戦うべき場だ。
「諦めろって」
一番近くにいた小男が不用意に近付く。クルセイダーに己を傷つけられるわけがないと確信しているような足取りだった。
クルセイダーの脳裏に、冒険者になったばかりの頃に聞いた台詞が蘇る。
「俺たちは、とにかく前で敵を食い止めるのが仕事だ。別に仕留めたっていいんだけどさ、忘れちゃいけないのはPTメンバーを守ること」
「俺たちが倒れたら、後方まで敵が行くってことを忘れちゃ駄目だ。剣士系なら特にな。だから、例え相手がどんなだろうと、敵意を持って襲ってくるような奴だったら――」
――ためらうな、斬れ
「ぐっあああああああ!?」
右足を深々と傷つけられた小男は、もんどり打って倒れた。赤い血をまき散らしながら、床を転がる。
「いってえ、いてえええええ!!」
クルセイダーは転がる小男に見向きもせず、手首のスナップでツルギについた血を払った。
「てめえ……それでも聖堂騎士か」
他の人間がこの台詞を聞いたら、お前らが言える立場かと突っ込んだことだろう。だがクルセイダーはあくまでも真剣に返した。
「俺としても人を傷つけることはしたくありませんが……わからないんです」
優しげな視線はもうどこにも残っていなかった。
「果たしてあなた方が、人間といえる代物なのかどうかが」
モンスターを見る目で男たちを見た。
「……っ、このガキ!」
禿頭の男が大振りの短剣を抜いて走る。数歩の助走をつけて真っ直ぐに突いてきたそれを、クルセイダーは左手で押しのけた。盾があったら正面から受け止めていただろうが、今はその手にない。代わりに、ツルギを相手の胸に当てて真っ直ぐ引いた。
ぱっと血が散り、目を見開いたまま男が倒れかける。胸に真一文字に赤い線を引かれた男の、その傷口にクルセイダーは柄を握ったままの拳を当てた。
「ヒール」
そしてそのまま、どんと押す。男は小男とほとんど並ぶ位置に倒れた。傷口から血は止まっていた。ヒールの作用によりうっすらと、ほんの薄皮一枚だけがその傷口を覆っている。動いたりしたら間違いなく裂けるだろう。
ひゅっと空気を裂く音がして、クルセイダーはツルギを振るった。カンとナイフが床に落ち、間髪入れずもう一本が飛んでくる。最初のナイフは囮だったのだが、クルセイダーは左半身を僅かに引いただけでそれを左肩に受けた。
ゆっくりとそれを投げた、リーダー格の男の顔を見る。
「……狙いましたね?」
男が投げたナイフは、クルセイダーが避けていたら子どもに当たるような軌跡を描いていた。クルセイダーはやや難儀しつつ、ツルギを手に持ったままナイフを抜く。
血の線を引いて、クルセイダーはそのナイフを投げ捨てた。
ショックで動けない禿頭の男の眼前にそれが突き刺さる。
「おい、こいつ危ねえ……」
「んなこと言って、びびってんじゃねえよ」
やせぎすの男は退き気味だった。
「今更逃がせるもんか」
「逃げて頂くわけにはまいりません」
会話にクルセイダーが加わった。一歩、二歩、寝台との距離を考えながら足を進める。脇腹と肩から血を流しながら、まとわりつく液体を拭いもしないまま。
「やべえって」
ついにやせぎすの男が背を向けた。それを叱咤しようと振り返った男の目に、階段から踏み込んでくる者たちが飛び込んできた。
「動くな! 王国聖堂騎士団だ!」
クルセイダーの一群がどやどやと、さして広くもない部屋に入り込んでくる。とっさに動き損ねたやせぎすの男があっさりと拘束され、武装解除される。
それを見て、クルセイダーはほっと力を抜いた。ツルギの切っ先が少しばかり下がったのを、リーダー格は見逃さなかった。
数歩の距離を走って詰め、クルセイダーが避ける間もなく羽交い締めにする。
「無駄な抵抗は……」
「するさ、無駄だと決まったわけじゃねえ」
分隊長らしきクルセイダーの言葉を吐き捨てるように止め、リーダー格は顎をしゃくった。
「俺たちが逃げ切るまで追っ手をかけんなよ。おかしな動きがあればこいつの喉かっきってやる」
「逃げ切れるとでも?」
「逃げてやるさ」
「そうですか」
リーダー格と分隊長の会話に入り込んだのは、捕まっているクルセイダーだった。くるりとツルギの向きを変え、自らの太股を突き刺す。
「ぐっ、あ」
血臭がひどくなった。ぎょっとした顔で、リーダー格がクルセイダーを見る。クルセイダーも男の顔を見ていた。
「……どうしますか? この足の俺を引きずって、お仲間を抱えて、どこまで逃げますか。俺の死体はどこで始末しますか? こんな事になった後で、どなたか助けてくださる当てがあるんですか?」
「……狂ってやがる!」
得体の知れない衝動に突き動かされて、リーダー格は手に握っていた最後の短剣を振りかざした。誰もが間に合わないと思った。
だから誰も、横をすり抜けていった風に気が付かなかった。
それは、目に見えていたら赤い風だっただろう。
「バックスタブ!」
そのかけ声と共にリーダー格の背後に姿を現した風は、スティレットの柄の部分でその頭を盛大にぶん殴った。ぐらりとリーダー格の体が揺れ、スタン状態でその場にぶっ倒れる。
「おお……借りててよかったトリプルキンスチレ」
間抜けな感想がその場に響きわたり、階段から下りたところで成り行きを見守っていたクルセイダーたちが一斉に動き出した。
青い髪のクルセイダーは、目の前に突然現れた赤い風、ローグを見て目を瞬かせている。
「あーもうこんなに怪我しやがって! どうやったらこんなになるんだよ!」
言うが早いか、そのローグは白ポーションの蓋を開けて、クルセイダーの頭からかけた。ばしゃばしゃと上から下へ、傷口へと惜しみなく何本も開けていく。後飲んどけ、と一本手渡された。
「はあ……あの、こっちがどうしようもなくて、こちらが不可抗力で、こっちはやむを得ず……ええと……」
頭からポーションでずぶぬれになったクルセイダーに、ローグはマントを被せた。見覚えがある、クルセイダー自身のマントだった。
「はー……もう、心配かけさせんなよ、ホント」
「す、すみません」
「寿命縮んだし、色んな人に連絡つけたりしたんだぞ、後で謝らないと」
「あ、俺が謝ります」
「お前は気にしなくて良い」
クルセイダーの、怪我をしていない方の肩に手を置いてローグはがっくりとうなだれている。
目を上げた時には、もう愚痴めいたことを言っていた男の顔ではなかった。
「で、誰に知られたくない?」
「……できれば全員に……とはいかないでしょうか」
「ある程度は説明しないとだしな……」
ふう、とローグは憂いのため息を吐いた。
「なるべく努力はする。後、鎧なんかはセレスが運んでくれるってさ。とりあえず今日は風呂入って寝て……」
「失礼」
周りが慌ただしく動いているのを意識の外に置いていた二人は、声をかけられて一斉にそちらを見た。先程男と交渉しようとしていた、落ち着いた物腰の分隊長が立っている。
「私は王国聖堂騎士団第二分隊の隊長だ。ご協力に感謝する。……こちらの力が足りず、申し訳ない」
二人に宛てて言い、深く頭を下げた。クルセイダーが慌てる。
「そんな、止めてください。こちらこそ、捜査のお役も立てず申し訳ないです」
「俺は友人の手助けしただけっすから」
分隊長は顔を上げ、二人をまじまじと見た。それから、ローグに微かに値踏みするような顔を向けてくる。ローグは真っ向からそれを受け止めた。
「失礼だが、身元の確認を」
「あ、はい」
クルセイダーは左の二の腕にくくりつけられた冒険者証を取り出し、分隊長に渡した。
「今回はミントスさんのチームに配属されていました」
「なるほど。こちらは?」
ローグはどこから取り出したか分隊長もクルセイダーもわからない冒険者証を渡した。
「こいつの家主みたいなもんです。住所はそうだな、こいつの兄が聖堂所属なんですが、そいつの登録場所になってるはずです。そいつも含めて何人かでシェアしてるんで」
「わかった。彼の名は?」
幾つかの分隊長の質問にローグが答えている間、クルセイダーは不思議な顔をして座っていた。恐らく彼にはローグが察している分隊長の思惑には気が付かないままだろう。要するに、ローグも犯人たちの一味なのではないかと疑われているのだ。失敗した実行犯を始末にくる黒幕配下の人間は多い。仲間が裏切った振りをしているのかもしれないと考えられたのだろう。ある程度は仕方のないことだとローグは諦めている。クルセイダーやプリーストが必ずしも善人でないように、ローグやアサシンが悪人であるということはない。概ね普通に冒険者としてやっていけるのだが、中には犯罪に手を染める輩もいる。全ての可能性を潰さなければならない分隊長殿も大変だな、とローグは心の中で呟いた。
「じゃあ悪いですが、こいつ連れて帰ってもいいですか? 休ませてやりたいんで」
「え、でも事情聴取とかあるでしょう、俺は全然」
「そうだな、生憎送るまで人手を割けんので、貴殿にお願いしたいがよろしいか?」
「はいはい」
クルセイダーの言葉はまるっきり無視され、ローグと分隊長の間で話は進んでいった。
「明日午後にでもこちらに来て頂きたい」
「はい、了解しました」
それでもかしこまって頼まれれば頷かないわけにはいかず、クルセイダーは姿勢だけは伸ばして返事をした。白ポーションと、少しずつかけたヒールの効果で立ち直りつつある体を立たせる。ローグがさりげなくそれを支えた。
外に出ると、まだ夜は明けていなかった。冷たい空気に小さく息を吐く。
先程まで連絡やらなにやらで忙しかったローグも、今はクルセイダーを支えながら道を歩くのに専念している。
「……ありがとうです」
「ん? 俺はたいしたことしてないよ」
「いえ、それだけではなく」
クルセイダーは冷たい空気を肺いっぱいに吸い込んだ。澱んだ空気を入れ換えてしまいたかった。
「ありがとうでした」
昔のあなたに。
ローグはよくわからないと言った顔で首をひねっていたが、どうも、としまらない返事を最終的に返した。
おまけ
一つのドアの前で、壁に寄りかかってプリーストがそのドアを睨んでいた。やがてそのドアノブが回り、一人のローグが姿を現す。
「……眠ったよ」
「そう」
プリーストに表情はない。
「言われた通り、あんたは教会に詰めてるって言っといた」
「そう」
「まあ、知られたくないだろうからな」
「そう」
「……会話する気、あるか?」
「ない」
すっぱりと切り捨てられ、ローグは頭をかいた。
「戻る」
常になく口数が少ないプリーストを、ローグはリビングまで追いかけた。
「今回の捜査の担当を回してもらってね」
さっきまで数人がいたリビングに人気はなく、ランプは消されている。走り回っていた者たちも、ここで待っていた者たちも、家人はみな眠りについていた。
ようやくプリーストがまともに口を開く。
「……人間、やったことと同じことをされるのが刑罰の本質ってものじゃない?」
「さーな」
ローグはわざと明言を避けた。
「あんなんじゃ売れないだろうけど、そういう趣味の人も囚人には結構いるし……それに、ほら」
暗いリビングでプリーストは振り返った。薄い笑みがその唇に浮かんでいるのを、ローグは見なかったことにしたくなった。
「バラバラなら売れるでしょ」
それがどういう意味かを、ローグは聞かなかった。
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